セルフ・キャリアドックの有効性
エンゲージメントのシステムとは

──組織と個人がつながり活力ある企業になるのは、企業だけでなく個人も含め、全体としてどのようなことを実行すればよいでしょうか。

私は「個人のニーズと組織からの要請のすり合わせ」がとても重要だと思っています。反対に労働者側と使用者を対立関係で捉えていては双方にとって良好な関係を築くことはできないでしょう。

「すり合わせ」とは、労働条件の取り引きではありません。個人の側面からするとジョブ・クラフティングをすることです。

一般に「キャリアチェンジ」とは「会社を辞めること」だと思っている人は多いのではないでしょうか。自分のやりたいことを実現するキャリアチェンジの方法には、個人の情熱・強み・価値を現在の仕事と結び付け、仕事の仕方や人間関係を工夫していく方法(ジョブ・クラフティング)があります。こういうことをキャリアの専門家は個人へ伝えていかないといけないでしょう。

また、経営者も、先ほど申し上げたように、一緒にやる仲間(従業員)とやりたいことを共有してともに気持ちと力を合わせる努力は必要でしょう。経営者と従業員がともに夢を語り、意気投合できれば、それは素晴らしいことです。もし「ちょっと違うな」となれば、経営者はその従業員がどのようにすると生き生きできるのかを、ジョブ・クラフティングの視点に立って、より適切な仕事の割り振りや調整をすることが大切です。

そして、これも大切なことですが、「すり合わせ」は個人のニーズを100%満たすことではないということです。例えば、自分の今の仕事が「1割は自分の夢ややりたいことで、9割は違う」ときに、「1割があるからやっています」でいいと思います。従業員は、収入が必要ですから、自己実現と経済的な面とのバランスを考えるでしょう。

経営者も従業員のしたいこと以外で頼みたいことだってあります。このように、経営者と労働者の両方が歩み寄るような、例えば御社が推奨しているようなエンゲージメントのプロセスが実行できるシステム(人材活用システム「M’sエンゲージメント」)が必要だと思っています。

──エンゲージメントを進めるシステムについて教えてください。

経営者も従業員も仕事における根本的なニーズを自覚し、これを仕事に結びつけて、働きがいと働きやすさを構築する仕組みが必要です。その第一歩が「自己理解」だと思います。

まず、経営者は自分の会社をどうしていきたいのかをよく考えるべきです。例えば、経営理念は掲げているけど、従来からの経営理念を継承しただけの場合、そこに経営者のニーズは反映されておらず「自分事」になっていません。自分事にするためには、先代と理念の本質を共有したり、自分なりに理念の意味づけをしたり、あるいは理念を変更したりする必要があります。

つまり、経営者の会社に対するニーズや情熱、価値を再確認して経営理念として表現していくプロセスが不可欠でしょう。そして、経営理念とその実現のため必要な人材像を従業員に向けて明示する必要があります。なぜならば、それが人材育成の目標になるからです。

次に、従業員は、キャリアコンサルティングを通じて自己理解を深めて、「求めていること」、「ありたい姿」を明確にしていきます。そして、今の仕事と関連づけていく、すなわち自己と仕事のつなぎ部分までキャリアコンサルタントや人事、上司がサポートしていかないと意味がありません(働きがいの実現)。

また、キャリアコンサルティングを通じて得られた労働環境の課題を収集し、企業側にフィードバックして環境整備をしていく(働きやすさの実現)。それができれば、モチベーションやエンゲージメントの向上につながっていくと思います。

このような実践の仕組みは、すでに「セルフ・キャリアドック」という名称で厚生労働省が企業への導入を推奨しています。エンゲージメントの向上の仕組みとして、セルフ・キャリアドックは期待できるでしょう。

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