セルフ・キャリアドックの有効性

個人の働き方の多様化や企業の競争環境の激化など、社会の変化が大きい現在、個人と企業がいかに理念や価値観を共有するかが大きな課題になっています。
その方法の1つとして期待されているセルフ・キャリアドックは、 厚生労働省の推進もあり関心が高まっている一方で、実際に導入をするのが難しいという声も聞かれます。

そこで今回、セルフ・キャリアドックの専門家であるユースキャリア研究所代表の高橋浩先生に、セルフ・キャリアドックの意義や有効性についてお話をうかがいます。

──コロナ禍で社会が変容する中、VUCAがキーワードといわれる時代ですが、今の社会変化を高橋先生はどういうふうに捉えてらっしゃいますか。
日本人が自律的キャリアを
考えるようになった背景

以前から言われていた「自律的なキャリア」という言葉が、働く人にとってもようやく「自分事」になりつつある、という変化を感じています。コロナになる以前から同じようなことが言われてきましたが、コロナでテレワークや在宅勤務をするようになって、自分の生活場面に仕事が入ってきました。みなさんも仕事と家庭生活をどう調整すればいいんだろうかと考え始めたのではないかと思います。

それ以前に私が社会の変化を感じたのはバブル崩壊の時です。世の中が「今までの働き方ってまずい」と感じ始めて「成果主義」への関心が高まりました。このとき私は「これから企業は大きく変わっていくんだ!」と思いました。とは言っても、いきなりアメリカのような成果主義が導入されず、年功的な終身雇用ありきの「ゆるやかな成果主義」のようなもの導入されて、それがこれまで続いてきました。バブル崩壊のタイミングで生じた大手企業の大量解雇をみて、多くの人が「今まで通り生涯この会社に勤めていくのは違うかもしれない」と思ったのかもしれませんが、その変化は許容範囲にとどまり、その危機感は忘れ去られてしまったという気がします。

しかしようやく2019年に、経済団体や大手企業から「終身雇用が難しい」というメッセージが出てきました。でも本当はバブルのころから多くの人はそのことに気付いていたのではないでしょうか。世の中がなんとなく変わっていることを感じつつも「先延ばし」にしてきたようにも思います。

一方で、その変化の兆しを鋭敏にとらえた人たちが先取りしてVUCA時代と声をあげてきたのだと思います。さらに今回の世界的な感染症拡大によって、「すべて会社の言う通りに生きていかなくてもよいのではないか」「もっと自分の生活を中心に考えてもいいのではないか」ということをようやく自分事ととらえ、1人ひとりが「自律的なキャリア」を考え始めるようになったように思います。

自律的キャリア形成
──雇用についてはどのように捉えていらっしゃいますか。

10~15年単位で職業を変えたり副業を行ったりすると思います。この時、「複数の強み」を持つことが重要になると思います。それは社会の変化に強いからです。以前、私が勤めていた企業では、何度か大量解雇が行われ、多く仲間がこれまでの仕事の延長線上で再就職していきましたが。ただ、本当に自分が望む再就職ができた人はどのくらいいたのか疑問に思います。つまり、単一の専門性では望ましい選択肢は広がらないということです。

私は会社員時代、「自分がやりたいこと(キャリアカウンセリングや心理学)」を本業の傍らで勉強しながらキャリアをつくってきていたので、すんなりと現在の道に入ることができました。また会社では経営企画にいたことから、セルフ・キャリアドックにおける組織へのフィードバックや企画提案などに対して、抵抗感がなく対応できました。

こんな経験から、異なる技能とか知識を組み合わせていくこと、そのために並行して別分野の学習を進めていくことがVUCA時代には重要だと思います。

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